旅番組

 アメリカのTVには一つ欠けているものがある。それは、いわゆる紀行もの、旅情もの、地方紹介ものというような種類の番組である。日本ではこういったものは結構人気があるジャンルで、短いものではNHKの朝のニュース番組での地方紹介から、所さんのダーツのたびのような気軽なもの、新日本紀行のような真面目なものまで色々種類がある。

 一方、アメリカにはこういう番組は全然ない。きっと、アイダホだのウィスコンシンだのには日本の田舎のお爺さん・お婆さんに負けずとも劣らない優しいgrandmaやgrandpaが暮らしているのだろうし、見るだけで心温まるような暮らしがあるのだろうが、そういったものは全く紹介されないのである。あたかも、そんなものには誰も何の興味もないかのように。

 私はこれがとても残念である。実際に車でアメリカ大陸横断をしてみて思ったのは、あらゆる町に人が住んでいて、その一つ一つに暮らしがあるのであるんだなぁ、ということだ。そんな町が全米に何千何万とあるというのに、どうして誰もそれに興味を持たないのだろう。見渡す限り地平線しか見えないようなテキサスのような州もあれば、ワイオミングのように山が切り立つ州もあるし、雪に閉ざされるニューヨークのような州もある。走っている車も人の格好も結構場所によって違う。そういった、自分たちとはちょっと違うけれども、それでも親近感をすぐに抱くくらいには近い、そういう人生にどうして興味がわかないのだろう。

 日本では、こうしたTV番組によって、自分の生活圏から離れた場所の暮らしを知る、という側面があるのじゃないだろうか。もっと大胆にいえば、こうした番組が日本の国としての一体感を醸成する一助になっているのではないだろうか。アメリカは多様性を認める社会だ、みたいにいう時があるが、何のことはなく、人々は同種の人とだけ付き合って「自分と違う」人は単に無視するだけの社会なんじゃないの?と思う時がある。

 まぁ、日本の場合には、お互いに無視できるほどの距離をとって生きることができないくらい狭いのであって、どっちがいいのかはよくわからないのだけど。