深圳

僕はアジアの猥雑な雰囲気が大好きである。

昨日は、深圳の空港に着くなり、ここに住んでいる中国人の友達が夕飯に連れていってやるというので、お言葉に甘えることにした。

彼の運転する車に乗っていると、突然バケツをひっくり返したような大雨になり、道路は見る間に池になってゆく。翌日のニュースによれば7人死んで4人が行方不明というのだから、我が人生で一番の大雨と言うのに何の誇張もない。そんな中でも、彼は動ずる訳でもなく「車が洗う手間が省けてよかった」とか何とか言いながら豪雨で何も見えない夜道を突き進んでいく。僕は猥雑なアジアも好きだが猥雑な友人も好きである。

食べ物屋の集まる地区の一本裏手の路地に車を停め、川と化した道を走ってお店に駆け込むと、期待通りの「中国の赤提灯」とでもいうべき趣のところであった。自分だけではとても来ることはなかったであろう。しかも、折からの突発豪雨でそこら中の屋根が雨漏り、というよりか天井に幾つも水道の蛇口がついたみたいになっており、ドラム缶サイズのバケツが下に置かれて水を受けている。そこら中のテーブルや床に水溜りができ、中庭は雨水が溜まってプールの有様で、このまま雨が続いたら店ごと水没するのは必定と思われた。

しかし、そんな中でも、厨房からはいい匂いがし、店員はテーブルの合間を縫って忙しげに食べ物を運び、人々は串に刺さった何かの肉を喰い、ビールを飲み、大声で手を振り回して何かを語り合い、あるいはもう飲みすぎたのか机に突っ伏しているのである。一体この空間は何なのか。明日地球に隕石が落ちて人類が滅びることになっていたとしても、ここはこのままなんじゃないのか。

僕はこの豪雨で大概動揺していて、ここで人生が終わったら悔いはないか?などと考えていたのだが、この様子をみてすっかり馬鹿らしくなってしまい、同じ最期を迎えるのなら、せめて美味しいものとビールに囲まれてと思い直して夕飯をいただくことにした。辛くてビールもすすみ、大変美味しくて、それで一人頭1000円にもならなかった。

全くもって忘れられない夜になってしまった。これだからアジアはやめられない

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